企業分析レポート:
富士通株式会社
経営戦略と人材戦略の深層
巨象の変貌と「勝負の10年」。
Deep Researchによる完全網羅版・徹底分析。
01. エグゼクティブ・サマリー:巨象の変貌と「勝負の10年」
2026年度の就職活動において、富士通株式会社(以下、富士通)を志望する学生、特に役員面接に挑む層に求められるのは、同社が現在直面している「創業以来、最大かつ最も痛みを伴う変革」への深い理解である。かつて日本のコンピュータ産業を牽引したハードウェアメーカーとしての富士通は、もはや過去のものとなった。現在の富士通は、デジタルサービスによる社会課題解決(Sustainability Transformation: SX)をコアビジネスとする企業へと、その姿を劇的に変えつつある。
本レポートでは、有価証券報告書、決算説明資料、統合報告書、そして英国議会資料などの一次情報を基に、富士通の経営戦略、競合優位性、リスク要因、そして人材戦略を徹底的に分析する。特に、2026年4月入社者から適用される「新卒一括採用の廃止・ジョブ型雇用の完全移行」という歴史的な転換点と、英国郵便局(Post Office)スキャンダルが経営に与える影響については、表面的なニュースの理解を超えた、経営視点での深い洞察を提供する。
02. 企業概要とビジネスモデルの構造改革
2.1 収益構造の転換:モノ売りからコト売りへ
富士通のビジネスモデル変革の本質は、低収益かつボラティリティ(変動)の高いハードウェア販売から、高付加価値かつリカーリング(継続課金)型のサービスビジネスへのシフトにある。この戦略は「Service Solutions(サービスソリューション)」への経営資源の集中投下と、非コア事業のカーブアウト(切り出し)によって実行されている。
2.1.1 セグメント別収益分析(2024年度・2025年3月期 第3四半期時点)
最新の財務データに基づくと、富士通の事業ポートフォリオは明確に「サービス」へと重心を移している。
Service Solutions
(サービスソリューション)
コンサルティング、SI(システムインテグレーション)、アウトソーシング、クラウドサービス。「Fujitsu Uvance」を含む。
経営資源を最も集中。営業利益率の目標を15%超に設定し、従来の労働集約型SIからの脱却を図る。
Hardware Solutions
(ハードウェアソリューション)
サーバー、ストレージ、ネットワーク機器。メインフレームやUNIXサーバーは2030年に向けて終息。
ネットワーク事業は2025年7月に「株式会社1FINITY」として分社化予定。製造販売のリスクを切り離し、技術IPのみを活用する方向へ。
Device Solutions
(デバイスソリューション)
電子部品(新光電気工業など)。
グループ外への売却や資本の切り離しが進められている(例:新光電気工業の売却プロセス)。
💡 インサイト:役員面接の評価ポイント
単に「IT企業です」と答えるのではなく、「ハードウェアの製造プロセスを切り離し(ファブレス化や分社化)、データとソフトウェアの力で利益率を高める構造改革の最中にある」と認識できているかである。特に2024年度において、サービスソリューションの調整後営業利益率は改善傾向にあり、構造改革の成果が数字として表れ始めている。
2.2 成長エンジン:「Fujitsu Uvance」の正体
富士通の未来を左右するのが、グローバル戦略ブランド「Fujitsu Uvance(ユーバンス)」である。これは従来の「顧客の要望に応じてシステムを作る(受託開発)」モデルに対するアンチテーゼであり、富士通が定義した「解決策(オファリング)」を顧客に提供するモデルへの転換を意味する。
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垂直統合(Vertical)と水平展開(Horizontal)のマトリクス
Uvanceは、「Sustainable Manufacturing(製造)」「Healthy Living(医療)」といった業種別(Vertical)の解決策と、「Hybrid IT」「Digital Shifts」といった技術基盤(Horizontal)を掛け合わせて提供される。
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収益モデルの変革
従来のSIビジネスはエンジニアの工数(人月単価)に依存するため、売上を伸ばすには人を増やす必要があり、利益率に限界があった。Uvanceは、標準化されたソフトウェアやサービス基盤を展開するため、一度開発した資産を多数の顧客に販売でき、規模の経済が働く。2025年度には売上高7,000億円、サービスソリューション全体の利益率15%を目指す野心的な計画の中核である。
2.3 投資領域:AIと次世代コンピューティング
富士通が稼ぎ出したキャッシュは、主に以下のディープテック領域に再投資されている。
2.3.1 Fujitsu Kozuchi (AI Platform)
生成AIブームの中で、富士通はOpenAIなどのLLM(大規模言語モデル)をただ使うだけでなく、企業が自社データを安全に学習させ、業務に適用するためのプラットフォーム「Fujitsu Kozuchi」を展開している。2026年に向けては、複数のAIエージェントが協調して複雑なタスクをこなす技術や、物理空間のデータをAIが解析する「Physical AI」領域への投資を加速している。
2.3.2 Fujitsu Monaka (次世代プロセッサ)
2027年の市場投入を目指し、2ナノメートル(nm)プロセスを採用したArmベースのCPU「Fujitsu Monaka」を開発中である。これはスーパーコンピュータ「富岳」で培った省電力技術をデータセンター向けに応用するものであり、AI処理による電力消費量の爆発的増加という世界的な課題に対する、ハードウェアレベルからの回答である。
戦略ポイント:チップ単体の販売競争(IntelやNVIDIAとの真っ向勝負)ではなく、このチップを搭載した「グリーンな計算基盤」をサービスとして提供することにある。
03. 競合他社との徹底比較 (The Big 3 SIers Analysis)
国内ITサービス市場において、富士通、NEC、NTTデータの3社は「御三家」と呼ばれるが、その戦略と企業文化は近年大きく乖離しつつある。役員面接では、「なぜ他社ではなく富士通なのか」を論理的かつ情熱的に語る必要がある。
3.1 定量・定性比較マトリクス
3.2 差別化のためのロジック構築
対 NEC
「NECは『技術(Technology)』そのものを売ることに強みがありますが、富士通は『技術を使ってどう社会を変えるか(Transformation)』という『コト売り』への転換スピードが圧倒的に速いと感じます。Uvanceという明確なオファリング体系を持っている点が、顧客への価値提供において優位性があると考えます。」
対 NTTデータ
「NTTデータは『システムを作る(SI)』プロフェッショナルですが、富士通は『テクノロジーを創る(R&D)』メーカーとしてのDNAを持っています。AIプラットフォーム(Kozuchi)や次世代CPU(Monaka)を自社で開発しているからこそ、ブラックボックスのない、真に最適化されたソリューションを提供できる点が決定的な違いです。」
04. 中期経営計画と将来性:ビジョンと現実の狭間
4.1 中期経営計画(2023-2025年度)の進捗評価
現在進行中の中期経営計画の核心は、「サステナブルな成長軌道への回帰」である。
- 財務目標: 2025年度 調整後営業利益:目標4,000億円(サービスソリューション利益率15%以上)。この達成のため、国内事業の利益率改善と、海外事業の黒字定着が必須となる。
- ポートフォリオ変革の断行: 2025年7月に予定されているネットワークプロダクト事業の「株式会社1FINITY」への分社化は、経営の意思決定スピードを上げ、ハードウェア事業のリスクを本体から切り離すための重要な施策である。これにより、富士通本体はより一層「ソフトウェア・サービス企業」としての性格を強めることになる。
4.2 2030年のビジョン:Net Positive
富士通は2030年に向けて、財務的な成功だけでなく、環境・社会・経済に対してプラスのインパクトを与える「Net Positive」な企業になることを掲げている。これを単なるスローガンで終わらせないための具体的なドライバーが「SX(Sustainability Transformation)」である。
企業のサプライチェーン全体のCO2排出量を可視化し、削減するソリューションは、Uvanceの中でも特に引き合いが強い領域である。富士通自身が自社工場やデータセンターで実践したノウハウを製品化している点が強みである。
05. 死角とリスク:英国郵便局スキャンダルという「影」
富士通を研究する上で、そして役員面接で高度なリスク認識を示すために避けて通れないのが、英国における「Horizon(ホライゾン)」スキャンダルである。
5.1 英国郵便局(Post Office)スキャンダルの全貌
事案の概要
1999年から2015年にかけ、英国郵便局(Post Office Ltd)に導入された富士通(当時は旧ICL経由)製の会計システム「Horizon」にバグが存在した。このバグにより、窓口の現金とシステム上の残高が合わないという誤表示が多発。郵便局側はシステムを「絶対的に正しい」と主張し、700人以上の郵便局長(サブポストマスター)を横領や詐欺の罪で訴追した。結果として、破産、投獄、地域社会からの追放、さらには自殺者まで出す英国史上最大級の冤罪事件となった。
富士通の責任
長年にわたり、システムに欠陥(バグ)があることを知りながら、法廷で「システムは堅牢である」との証言を行い、郵便局側の訴追を支援したとされる。2019年の高等法院判決でシステムの欠陥が認定され、冤罪が確定した。
5.2 最新動向(2024-2026年)と経営へのインパクト
- 補償問題 英国政府は被害者救済のために約18億ポンド(約3,400億円)の予算を計上しているが、富士通に対しても費用の負担を求めている。2026年1月時点でも、富士通幹部は議会で「道義的責任」と「補償への貢献」を明言しているものの、具体的な負担額については政府との協議中であり、確定していない。
- 財務リスク 数百億円から数千億円規模の引当金計上が懸念されている。2024年度の決算においても、関連する法的費用や引当金が計上されているが、最終的な解決までには数年を要する可能性があり、将来の利益を圧迫する要因として残り続ける。
- レピュテーションとビジネスへの影響 英国政府からの新規入札参加の一時停止措置など、ビジネス実務への影響が出ている。また、「信頼(Trust)」をパーパスに掲げる企業として、ブランドイメージへの打撃は計り知れない。
5.3 役員面接での「正解」のスタンス
この問題について問われた際、あるいは逆質問で触れる際は、批判ではなく「教訓」と「ガバナンス」の文脈で語ることが重要である。
「英国の件は、技術を提供する企業が社会に対して持つ責任の重さを痛感させる事案だと認識しています。御社が現在、独立社外取締役を中心としたガバナンス体制の強化や、リスクマネジメントの徹底を進めているのは、この教訓を二度と繰り返さないための強い意志の表れだと理解しています。私は、技術の正しさを過信せず、常に倫理観を持って業務に取り組みたいと考えます。」
06. 社風・キャリア・働き方のリアル:Job-gataとWork Life Shift
6.1 「新卒一括採用」の廃止と「ジョブ型」への完全移行
2026年4月入社者より、富士通は「新卒一括採用」を廃止し、「ジョブ型採用」へと完全に移行することを発表した。これは就活生にとって極めて大きなインパクトを持つ。
- 配属ガチャの消滅: 従来の「総合職」採用では、入社後に適性を見て配属先が決まるため、希望しない職種(例:営業志望なのに保守運用など)に就くリスクがあった。ジョブ型採用では、応募時点「クラウドエンジニア」「公共営業」「AIリサーチャー」といった具体的な職務記述書(ジョブディスクリプション)に基づいて選考が行われる。
- 給与の個別化: 「初任給一律」の概念が崩れる。高度なスキルを持つAIエンジニアと、一般的な営業職では、入社時点での報酬グレードが異なる可能性がある。市場価値に基づいた報酬体系が適用される。
6.2 ポスティング制度によるキャリアの流動化
富士通の変革を象徴するのが「ポスティング制度(社内公募)」の定着である。年間3,000人以上の社員がこの制度を利用して異動している。
- 上司の拒否権なし: 行きたい部署があり、その部署が受け入れれば、現在の上司は異動を止めることができない。
- 自律的キャリア形成: 会社にキャリアを委ねるのではなく、「自分のキャリアは自分で切り拓く」という意識が強く求められる。逆に言えば、主体性のない社員にとっては厳しい環境になりつつある。
6.3 Work Life Shift(ワークライフシフト)
働き方の柔軟性は国内トップクラスである。
- リモートワーク: 「出社」は義務ではなく、業務内容に応じた「選択肢」である。コアタイムのないスーパーフレックス制度と組み合わせ、場所と時間にとらわれない働き方が定着している。
- 単身赴任の解消: リモートワークを前提とすることで、家族と離れて暮らす単身赴任を原則解消する方針を打ち出している。
07. 選考対策:内定を勝ち取るための実践ガイド
富士通の選考、特に役員面接は「能力確認」の場ではなく、「価値観の合致(Culture Fit)」と「変革への覚悟(Commitment)」を問う場である。
7.1 エントリーシート (ES) ・ガクチカのアピール点
求める人物像は、パーパス(Fujitsu Way)を体現できる「自律的な変革者(Change Agent)」である。
- ✅ 挑戦: 未知の領域や困難な課題に対して、自ら手を挙げて取り組んだ経験。
- ✅ デジタル/データ活用: 文系であっても、課題解決のプロセスでデータをどう活用したか、デジタルツールをどう取り入れたかという視点。
- ✅ 社会課題への意識: 自分の行動が社会やコミュニティにどのようなプラスの影響を与えたか。
7.2 Webテスト形式
傾向: 近年は TG-WEB(従来型・新型)や SPI(テストセンター)が採用されるケースが多い。特にTG-WEBは難易度が高く、計数問題などでの事前の対策が必須である。また、グローバル企業への転換を進めているため、英語能力(TOEICスコア等)も加点要素となる場合がある。
7.3 役員面接・頻出質問対策 (クリックで回答戦略を表示)
Q1. 「なぜIT業界、その中でもなぜ富士通なのか?(NTTデータやNECではなく)」
「安定」や「規模」ではなく、「変革」と「挑戦」をキーワードにする。「御社は現在、ハードウェアメーカーからの脱却という最も困難な変革に挑戦しており、その挑戦の場に身を置くことで、私自身も成長できると考えたからです。NTTデータのような完成されたSIerではなく、自らビジネスモデルを作り変えている御社のダイナミズムに魅力を感じます。」
Q2. 「ジョブ型採用についてどう思うか? あなたのキャリアプランは?」
専門性を磨く覚悟を示す。「大賛成です。私は〇〇のプロフェッショナルとして早期に戦力になりたいと考えており、入社前から職務が明確であることはモチベーションになります。将来的には、ポスティング制度を活用し、××の領域にも挑戦することで、T字型の人材になりたいです。」
Q3. 「英国郵便局の問題について、あなたはどう考えるか?」
批判せず、当事者意識を持つ。「技術の不完全さと、それを扱う人間の倫理観の重要性を痛感しました。私は、技術的なスキルだけでなく、御社の掲げる『信頼』という価値観を最優先に行動する社員でありたいと強く思います。」
7.4 鋭い逆質問(キラークエスチョン)
役員を唸らせるには、中期経営計画や統合報告書を読み込んでいなければできない質問を投げかけることだ。
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戦略の深堀り:
「サービスソリューションの利益率15%達成に向けて、現場レベルでは『高付加価値化(単価アップ)』と『不採算案件の抑制(コストダウン)』のどちらがより重要な課題となっているのでしょうか?」
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人材戦略への問い:
「ジョブ型への移行に伴い、社員に求められる『自律』のレベルが上がっていると思います。役員から見て、今の若手社員に『もっとこうしてほしい』と期待される具体的な行動変容はありますか?」
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未来への投資:
「MonakaプロセッサやKozuchiなど、長期的なR&D投資が御社の強みだと理解しています。これらの技術をUvanceのオファリングとして社会実装する際、最大の障壁となっているのは技術的な課題でしょうか、それとも顧客側の受容性でしょうか?」
08. 結論:選ばれる候補者になるために
富士通は、安定を求める学生のための会社ではない。痛み(Pain)を伴う変革の真っ只中にあり、その変化を楽しめる人材を求めている。
本レポートで解説した「ビジネスモデルのサービス化」「英国リスクの背景」「ジョブ型への移行」といった文脈を深く理解し、自分の言葉で「なぜ、今、富士通なのか」を語ることができれば、内定は確実なものとなるだろう。役員面接は、あなたが富士通というフィールドを使って何を成し遂げたいかをプレゼンする場である。自信を持って挑んでほしい。
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